有権者を分断して選挙に勝つ

政治の話になると、漠然としたものではありますが、右か左かという軸があると思います。もちろん、右でも左でもないという立場もあります。

私は、ここ最近、政治を語る上で、そうした軸に加えて、「分断」「対話」かという軸があるのを感じます。

「分断」とは、意見の異なる有権者を分断して対立をあおる姿勢を指します。「対話」とは、意見の異なる有権者の対話を促して、互いの妥協点を探る姿勢を指します。

 

 

有権者を分断して選挙に勝つ

 

2016年のアメリカ大統領選挙は、まさに「分断」の方向に政治が流れた現象だと私は捉えています。

具体的にはトランプ大統領が、政策を前面に押し出さず、散々対立候補を罵って、有権者の支持を取り付け、当選したことを指します。トランプ大統領は、有権者を分断することを最優先事項として、選挙に勝つという手法を採りました。

就任演説で、「アメリカ第一」「アメリカを再び偉大にする」という選挙期間中と同じフレーズをトランプ大統領は用いました。私は知らなかったのですが、アメリカ大統領の就任演説では、選挙の時に使った言い回しは、使わないのがマナーなのだそうです。つまり、オバマ前大統領は就任演説で「私たちにはできる」「チェンジ」といった言い回しを避けたそうです。それは、敗者に対する配慮、言い換えると、戦いが済んだ今、団結しようというメッセージなのだそうです。トランプ大統領はそうした慣例を破ったのです。まさに「分断」政治の体現者です。

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なお、こうした有権者を分断する作戦は何もトランプ大統領だけの専売特許ではありません。最近では、郵政民営化という単一争点で、大勝利した小泉元首相や、大阪都構想を掲げて、府知事や市長を務めた橋下前大阪府知事にもそうした姿勢が、トランプ大統領ほどではないにせよあったと思います。つまるところ、日本の有権者にも昨年のアメリカ大統領選挙の時の有権者のような傾向があったと言えるでしょう。

 

 

選挙の後、有権者が分断されたままというのは望ましくない

 

選挙をすると勝者と敗者が生まれます。

その後、勝者が最高権力を握って、行政を司ることになります。だからといって、行政サービスを享受するのは、勝者に投票した人たちだけではありません。敗者に投票した人、投票しなかった人もサービスの受け手です。選挙の勝者は勝者のリーダーだけでなく、すべての人のリーダーなのです。そこを見誤ると、社会は動揺し、混乱します。トランプ大統領は、まさに今、そうした動揺と混乱を引き起こしていると言えます。

 

昨年のトランプ大統領の勝ち方というのは、とにかく絶対的な敵を設定し、事実であろうがなかろうが、相手側を徹底して罵倒することによって、選挙に勝てるという事例を内外に示したという点で、注目すべき出来事だったと思います。徹底的に有権者を分断することと引き換えに、選挙に勝てるということです。そしてこれは、その社会に住む多くの人にとって、選挙戦の後、住み心地のよくない環境ができてしまうことの前例になりました。

 

こうした選挙での勝者が、「敗者や投票しなかった人のことを計算に入れないでふるまうということができる」という点は、民主主義のひとつの要素である多数決主義がもつ落とし穴だと言えると思います。

多数決主義に代わる、より安全な政治運営の手法を私は思いつかないのですが、「多数決で決まったから正しい」というのは違うことだけは明白だと思います。

 

 

ヒトラー政権は多数決主義の結果、誕生した

 

極端な例を挙げると、1930年代のドイツでは、多数決主義の結果として、つまり合法的な選挙によって、ヒトラー政権が誕生し、欧州に分断と悲劇をもたらしました。なお、ヒトラー政権の誕生を防ぐには、ドイツの有権者が賢明な判断を下すだけでなく、当時のドイツに過大な負担をしいた第一次大戦の勝者たちや、共産主義を警戒して、ヒトラー政権を容認したドイツの富裕層の果たした役割も重要だったと思います。

 

 

 

今回、トランプ政権が多数決主義で誕生し、様々な軋轢を生み出しているのは、単にアメリカの有権者の判断力に問題があるという話ではないと思います。多くの人が、トランプ氏に投票した背景を丹念に読み解く作業が必要だと考えます。

 

また、私は、昨年のアメリカ大統領選挙での「分断作戦」には、ネットが大きな役割を果たしたと考えています。ネットというテクノロジーの進化が招いた「事故」として、昨年の選挙が捉えられる日が来るような気がします。ネットを活用して、「分断から対話」といった動向が生まれることを期待したいと思います。