変な国などない 前編

 晴れて都会大学の地域研究学科の試験に合格した僕は、4月に、学科の主催する、一年生向けオリエンテーション合宿に参加することになった。大学の仕組みを学び、学生どうし、また、学生と教職員とが、親睦を深めることが狙いだ。

 

 地域研究学科はこぢんまりとした学科だった。合宿当日にキャンパスに向かった僕は、同級生たちとともに2台のバスに乗り込んだ。隣の座席に座ったのは髪の長い東山というやつだった。東山は奈良県の高校を卒業した、奈良生まれ、奈良育ちの男だった。僕と東山は、ともに欧州に興味があったことと、一浪経験者ということから、意気投合したのだった。

 

 地方から出てきた僕は、どのような言葉で東山と会話すればよいのかわからなかった。僕は、北関東なまりと標準語が混ざった、いや「標準語のつもりの言葉」で話した。一方、東山は、まったく妥協のない関西弁で話した。奈良駅には自動改札機があるのだと東山は自慢した。

 

 1時間弱バスに揺られ、都会大学の周辺とは、随分、景色の違う、緑豊かな細い道をバスは進んでゆく。そうしてすぐに、大学の保有する山小屋のような建物に到着した。

                                                                                                                              

 地域研究学科を設置している大学は、当時も今もあまり多くない。所属する学生は、北米や、欧州、東アジア、中東といった選択肢から、自分が興味のある地域を選び、その地域について、かなり自由に学問の壁を越えて、学ぶことができた。

 

 オリエンテーションは、自己紹介から始まることになっていた。学生は50人ほどいるので、かなり時間がかかるものだった。誰もが、新しい仲間たちに興味津々で、何を話そうか、あるいは、何を話さないでおこうか、めいめい真剣にシミュレーションしたのだった。