変な国などない 後編

前編のあらすじ

 

都会大学に入学した「僕」は、新入生向け合宿に参加し、自己紹介の時間を待つことになった。

変な国などない 前編 - Thursday's Child

 

 

 まず、冒頭に教職員と、合宿を企画した二年生4人とが、自己紹介することになっていた。教職員の自己紹介が始まった。この学年の責任者を務めることになった、前田教授が挨拶した。福耳をもつ前田は、ドイツ政治史が専門で、まげを結ったら、どこぞの殿様に仕える家老のような風格を漂わせていた。次に、東アジア史を専門とする白髪頭でメタルフレームの眼鏡をかけた、塚田教授が自己紹介した。父親のような年齢の塚田は饒舌だった。音楽、アニメ、芸能界に強い興味をもっており、面白い人だと思った。

 

 教職員の自己紹介が終わり、次に、合宿を企画した二年生の自己紹介の番となった。リーダーを務める川渕という女子学生が自己紹介した。垢抜けていて、聡明な印象を与える、「都会大学の学生」を絵に描いたような凛々しい人物だった。2人目は佐藤という背の低い男子学生だった。大きな明瞭な声で話す佐藤は、体育会ラグビー部に所属しており、テレビドラマに出てくるような「爽やかラガーマン」だった。こういった、人当たりよく、頭の回転も速く、服装のセンスもよい「都会大学」の先輩の姿や声に接し、自分ははたして、この学校になじむことができるだろかと、早くも心がざわつき始めた。

 3人目は平井という女子学生だった。厚い唇をもつ、どことなくエキゾチックで、端正な顔立ちの平井は、新一年生のみなさんにお会いできて、うれしいですと決まり文句を述べた後に、

「実は、わたし、変な国で高校時代を過ごしました。アラブ首長国連邦という、わかります? サウジアラビアの隣にある国です。へへ」

と続けた。平井なりのユーモアのつもりだったのだと思った。

 塚田が話を遮った。

「平井さん、今、変な国と言いましたよね。変な国なんてないんですよ。わかる?」

 平井は不意をつかれた表情を見せた。

「そうですね、すみませんでした…。この合宿で、みなさんと仲良くなりたいと思います。みなさんも、友達を、いっぱい、つくってくださいね」

 平井の自己紹介はそこで終わった。

 地域研究という学問を専門とする学者の視点と、地域研究をする者の心の在り方について、僕は、思いをめぐらせた。そして、都会大学という学校の名前は、本当にその通りなのだなと何やら納得した。

 

 予定通り、全員の自己紹介が終わるのは、お昼ごはんの直前になった。僕と東山は、並んで座り、配られた弁当をほおばって、互いの地元のラーメン店について、張り合ったのだった。